信託契約は、受託者との契約によって、信託の目的/資産の承継/信託財産から 生じる利益の分配方法などに、委託者の意思を反映できます。
たとえば、認知症の発症などで委託者の判断能力が低下したときでも、 その前に信託契約をしておけば、委託者の意思に基づき、 受託者に財産管理をしてもらうことができます。
不動産を誰が相続するのか、配当や収益を誰にどのように分配するか、事業承継 では誰に保有株を承継させるか、信託契約で決めておくことができます。
民事信託によれば、積極的に資産運用を行い、収益を確保することが可能です。
本人が生存している間に、契約の内容によっては、贈与と同様の効果を 生むこともできるなど、財産の管理、処分をさまざまな方法で 決めておけるメリットがあります。
第一には、委託者本人が認知症になったときでも、信託財産から配偶者や子供に 収益が分配できるため、本人の意思による生活の保障をすることができます。
第二には、本人の死後に、残された人の生活が保障できます。 たとえば、「遺産である信託財産の中から、配偶者や子供に毎月定額を 給付したい」、「特定目的のために信託財産の相続先を決めておきたい」、 「相続人や受遺者が一定の年齢になったときに信託財産を渡したい」といった ことも可能です。
第三には、配偶者や子供が認知症、あるいは障がい者などで財産管理が難しい 場合に、信託財産から定期的に生活費などを渡すといった方法を、 契約で委託者が決めておくこともできます。
民事信託では、複数の代にわたり受益者や相続人を決めておくこともできます。
遺言でも、自分が死んだ時の遺産相続について定めておくことはできるものの、 その次以降の相続については指定できません。
契約するときは委託者自身が信託の受益者であっても、本人が亡くなった後の 受益者を同時に決めておくことができます。
たとえば、配偶者や子供を、次の受益者としておくケースです。 指定された者に承継される定めのある契約を、「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」 といいます。
受益権の承継は、回数に制限はありません。 信託がされたときから30年経過後に、新たに受益権を取得した受益者が 死亡するまで(信託法第91条)は、当初の委託者の意思にしたがい、 順次、承継が行われます。
民事信託を利用するメリットの一つは、信託財産が分別管理されることです。
つまり、所有権と管理処分権とが分かれているということです。 信託財産の管理処分権が受託者にあるため、受託者の判断で、たとえば不動産の 売却などを行える一方、収益は複数の受益者に分配することもできます。
特定の受託者に事業を承継させ、利益は受託者のほか複数の人に分配する方法を 取ることもできます。 信託財産が分別管理されているという別の意味は、委託者の財産からも、 受託者の財産からも、隔離されているということです。 民事信託によれば、委託者の破産や会社倒産の影響を受けず、 受託者の破産や会社倒産の影響も受けません。