M&Aにおける事前準備の重要性ということで、今回は、「株主」についてお伝えします。
我々が事前調査する内容の中でも、初期に確認する事項の一つとなります。 「何故?現在の株主は自分だよ」と、当事者である経営者の方は、あまり気にされません 。一方で買主側としては、法務デューディリジェンスの項目として必ず調査がされる点です 。
では、何故買主は重要視するのでしょう? M&A取引における主要な取引形態は、「株式譲渡」又は「事業譲渡」という形態を取ることが多く、その中でも「株式譲渡」は中小企業のM&A取引において活用される場面は非常 に多いです。現場では、取引時点で株式を保有する者と買主との間で株式譲渡契約を締結 し、譲受対価を買主が株主に支払う事で取引を実行します。
中小企業では実際に株券を発 行して、株主が株券という物体を保持している会社は殆どありません。株券を発行してい る場合には、株券を売主から買主に引き渡す事が必要となりますが、株券不発行の会社の 場合、株券という物体がありませんので、株主という者が本当に権利を保有している者な のかという点は、買主としてはデリケートな問題となります。
また、旧商法時代には会社を設立するために7名の出資者が必要とされた時期があり、当時設立した会社では「名義株」という、書類の名義上の所有者と実際の所有者が異なる株式が存在し、今日までに既に実態に合わせた状態に名義株を解消している会社もあれば、 解消されていない会社があります。 上記のようなことをふまえ、買主としては、株式譲渡という取引形態で対象会社の株式及 び経営権並びに資産等を承継することとなり、株券という物体が無い以上、取引当事者が 実際に権利を保有する株主なのかという点は非常に重要な論点となるのです。
では、どんな書類が要求されるのでしょうか?
デューディリジェンスでは法務部門を担当する弁護士や司法書士から、以下のような書類 を必ず調査資料として要求されます。 ・設立時の原始定款 ・名義株を整理している場合には、その一連書類 ・設立後の増資等に関する書類(議事録等) ・設立後の株式譲渡に関する書類(契約書、議事録等) ・株式の相続に関する書類(遺産分割協議書等) ・決算申告書
しかし、現実的には中小企業で上記書類等の作成・保管がされていない会社が多く存在する事も事実です。
その場合、保管されている書類を全て提示の上、株主等に足してヒアリ ングを行いながら、買主が問題無しと判断すればM&Aを進める事が可能となります。一方 でいくら売主がM&Aを進めたいと思っていたとしても、進められないとその時点でお断り をする買主がいるのも事実です。 今回は、売主はそれほど重要としていない株主について、買主から見たときに取引が進め られる進められない重要な論点であることをご説明しました。 中小企業のサポートをされている士業事務所の先生方も、お客様で今後M&Aを検討される会社がありましたら、経営者に対して「設立から現在までの株主の履歴、その資料は整っ ていますか?」と聞いてみて下さい。