会社都合退職にする会社のデメリット ~助成金だけではない!?~

事実の概要(フィクション)


助成金をこれから申請をするタイミングで、当初自己都合だった退職予定従業員の方から「やっぱこれって会社都合ですよね?」と言われた場合の適切な対応は・・・

また、「ハラスメントゆえに辞めざるを得ない」と主張されている場合
さらに、それゆえに体調不良で労災かも?と主張されている場合etc

一筋縄ではいかない問題だと思います。
本稿では、このようなケース(以下「本件事例」という)で「会社都合」にした場合の会社のデメリットを確認します。


手続きの流れ(雇用保険)


資格喪失届と離職証明書の提出

まずは、従業員が退職した場合の基本的な手続きの流れを確認します。
会社としては、退職日の翌々日から10日以内(例えば令和7年1月10日(金)退職の場合は、令和7年1月21日(火)まで)に「雇用保険被保険者資格喪失届」をハローワークに提出する必要があります。
また、退職者の求めに応じて(実務上は本人から不要との申出がない限り)、上記と同じタイミング(添付という形)で「雇用保険被保険者離職証明書」を作成します。


離職票の発行手続き

会社がハローワークに上記2セットを提出後、ハローワークが順番に内容を確認をします。
ハローワークの確認後、内容等に不備がなければ「雇用保険被保険者離職票」が交付されます。


離職票の交付

次に会社は、ハローワークから交付された離職票を退職者へ渡します。
退職者がハローワークから失業給付を受給するためには、この離職票が必須アイテムです。
なお、離職票は、「離職票-1」と「離職票-2」の2種類で構成されています。


離職票の離職理由の最終判断

離職票には、離職理由が書かれています(自己都合退職か会社都合退職か等)。
本件事例のように、離職理由について本人と会社の意見が食い違うことはあります。
この点、会社が自己都合として事務処理した場合でも、従業員から異議申し立てがあった場合、会社都合退職か自己都合退職かの判断は、最終的にハローワークが行います。具体的には、会社や本人から事実確認、証票確認を行い、それをもとにハローワークが判断し決定します。
たとえば、会社の労務環境に問題(例えば、ハラスメント等)があり退職した場合は、本人の意思による退職であっても、ハローワークにおいては会社都合退職と判断される事があるわけです。


一部の誤った情報

余談ですが、このような手続きの流れ(離職後の話)なので、一部の情報発信系の方のSNS等で見られる「退職を考えているときは、退職前に会社から離職票をもらっておきましょう」という記述は誤りです。


参考リンク

事業主の行う雇用保険の手続き/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page15.html

雇用保険被保険者離職証明書についての注意
https://www.mhlw.go.jp/content/000763185.pdf


会社都合退職にする場合の会社のデメリット


会社都合退職にすると、会社側にとって次のようなデメリットがあります。

◆ 雇用関連助成金の支給停止や減額
◆ 労働者から不当解雇の訴え等を起こされる可能性
◆ SNS拡散等の風評被害

まとめ表にまとめると以下の通りです。

図表はこちらでは載せられなかったので、当事務所のコラム参照→コチラ

会社都合による退職者を出した場合、一部の助成金は不支給、一定期間支給停止、減額となります(例えば、本稿末尾に5つほどピックアップしました)。
また、労働者が解雇に納得しない場合は不当解雇を訴え、退職の無効や損害賠償金の支払いを求める可能性があります。

したがって、一般的には「助成金申請を考えていなければ、会社都合退職にする会社のデメリットは無い」と案内されることもあるかと思いますが、訴訟リスクは増加しますので十分に注意が必要です。


見極めが難しい実態


実際のところ会社都合退職の事情があっても、労働者に退職願や退職届の提出を求めて自己都合退職扱いにしようとする「極悪社長」な企業もありますし、逆に、会社都合してもらったことを契機に労災申請&損害賠償請求フルコンボで会社から搾取しようという「極悪従業員」もいらっしゃいます。
いずれも極端な例であり、実際の現場はこれらの中間だと感じています(極悪社長のほうは私自身も経験ありますが)。


「良かれと思って」は危険


前述の「極悪社長」のような所業は論外ですが、一方で、会社都合にしたほうが雇用保険の失業給付が手厚いので、良かれと思って「会社都合」にするケースも考えられます。
この点、事実に反する判断は避けるべきです(そもそも虚偽申請は不正行為です)。
「当社は助成金申請を考えていないし、それならば今まで働いてきてくれた従業員さんのためにも!」と思う気持ちは分かりますが、会社にとって後で取り返しのつかない問題が発生する可能性があるからです。

また、事実認定が曖昧な場合も、慎重に判断する必要があります。
例えば、本件事例のように「ハラスメントなのではないか?」という主張に対して、会社内でハラスメント認定する前にハラスメントの事実を認めることはできないはずです。
労災申請の場面ですが、「良かれと思って」私傷病ではなく労災として処理した事例で、後にその判断(労災とした処理)に基づき労働者が会社に対して損害賠償請求してくるケースもありえるわけです。

したがって、会社としては事実に基づいた正しい(会社が真に正しいと思う)判断をすることが重要であり、事実に反する(または疑いのある)要求には毅然とした対応をすることが必要だといえます。


会社都合退職で制限される助成金


最後に、会社都合退職で制限される助成金を5つほどピックアップしますので、ご参照ください。

キャリアアップ助成金(正社員化コース)

正社員化した日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、当該正社員化を行った適用事業所において、雇用保険被保険者※6を解雇※7等事業主の都合により離職させていない事業主であること。

【20頁参照】https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/001239298.pdf


人材開発支援助成金

職業訓練実施計画届(様式第1-1号)の提出日の前日から起算して6か月前の日から支給申請書の提出日までの間に、当該計画を実施した事業所において、雇用する被保険者(雇用保険法第38条第1項に規定する短期雇用特例被保険者及び同法第43条第1項に規定する日雇労働被保険者を除く。)を解雇等事業主都合により離職させた事業主以外の事業主であること。

【29頁参照】https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001325360.pdf


トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)

基準期間に、トライアル雇用を行った事業所において、雇用保険被保険者(雇用保険法第38
条第1項に規定する短期雇用特例被保険者及び同法第43条第1項に規定する日雇労働被保険者を除く。以下「被保険者」という。)を解雇等(退職勧奨等を含む。)事業主の都合により離職させた事業主(次の(イ)に該当する解雇等又は(ロ)に該当する解雇により当該被保険者を離職させた者を除く。)以外の者であること。

【7頁参照】https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000858496.pdf


中小企業最低賃金引上げ支援対策費補助金(業務改善助成金)

上記1の生産性指標の算出期間において、事業主都合による離職者がないこと。

【10頁参照】https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001362676.pdf


早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)

中途採用計画に係る0502aの書類の提出の日の前日から起算して6か月前の日から支
給申請書の提出日までの間(以下「基準期間」という。)に、当該事業所において雇用
する雇用保険被保険者(雇用保険法第38条第1項に規定する短期雇用特例被保険者及び
同法第43条第1項に規定する日雇労働被保険者を除く。)を事業主都合で解雇等(退職
勧奨を含む。)していないこと。

【9頁参照】https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001237618.pdf

Base One Hun未登録の方はこちら!

登録して事務所の紹介を掲載しませんか?

サムライナビ・パートナーナビ未登録の方はこちら!

紹介文を掲載して提携先を探しませんか?

※登録にはBase One Hubへの登録が必要です